長崎地方裁判所 昭和27年(行モ)1号 決定
申請人 高木長義
被申請人 島原市長
一、主 文
本件申請を却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
二、理 由
申請代理人は「被申請人が申請人に対して昭和二十六年八月二十四日附でなした免職処分の執行を申請人被申請人間の当庁昭和二十七年(行)第三号免職処分取消請求事件の判決が確定するまで停止する」旨の裁判を求めその申請理由として述ぶるところは申請人は別紙の如き学歴経歴を有するもので島原市に勤務以来、心身を傾けて職務に努力した結果昭和二十二年三月十七日起用されて同市総務課長に就任し爾来微力乍ら市政上、市事務上、献身し昼夜の別なく誠実且勤勉に市の為に尽力した。然し乍ら近年職務多忙のため過労となり身体の異常を感じ昭和二十六年七月二十八日出務不能に陥り静養についたところ被申請人は突如申請人宛辞職を勧告し来つた。而して申請人はその理由を見出し得ずこれに応じなかつた処被申請人は重ねての辞職勧告の後同年八月二十四日附で申請人を島原市職員分限条例第三条第一号、(勤務成績がよくない場合)第三号(その職に必要な適格性を欠く場合)に該当するものとして申請人を罷免する行政処分をなした。然し乍ら申請人にかゝる事由の存在しないのみならず被申請人はその手続に於ても労働基準法第十九条第一項の「使用者は労働者が疾病にかゝり療養のため休養する期間及びその後三十日間は解雇してはならない」旨の規定並に同法第二十条の「使用者は労働者を解雇しようとする場合においては少くとも三十日前にその予告をしなければならない」との規定並に同法施行規則第七条第一項後段の「所轄労働基準監督署長の認定を受けねばならない」旨の規定に違反するものであるから島原市公平委員会に提訴した後(三ケ月間を経過しても処理しないので)前記免職処分取消の本案訴訟を提起し目下審理中である。然し乍ら
(1) 申請人は妻外四名の子供を抱え月々最低二万余円の生計費を必要とするが本件免職処分後は収入皆無となりその日の生計に窮している。
(2) 高利の金を借りているが月々多額の金利を要するのみならずもう金を借り尽して借入れの見込が立たない。
(3) 健康保険の扱が受けられないので長女、次男の療養費も全額を要し困却している。
(4) 例え申請人が本案訴訟に於て敗訴となつても申請人は多額(合計二十五万六千二百三十円)の退職金を受領し得ることとなつているから職場復帰はしないまでも給与支給だけに関する執行停止を得ても何ら不当な影響を及ぼすものではない。よつて全面的執行停止が不可ならば給与支給に関する点だけの執行停止を求むるため本件申請に及んだというにある。
申請人提出の各疏明により申請人には申請人主張の如き扶養家族を有して他に収入の途なく生活に困難を来していることは充分看取し得るが凡そ行政処分の執行停止は行政事件訴訟特例法第十条にいう「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があると認めるとき」の要件を必要とするばかりでなく同条所定の執行停止処分が一種の保全処分たる性質を有するものであるという点に鑑み、被保全請求権の存在することが疏明されることを必要とすると解するを相当とする。然らずして徒らに前記「緊急の必要があると認めるとき」のみ考えて判断するに於ては却つて混乱を惹起するだけだからである。かゝる観点に於て本件をみるならば同じく当裁判所の関与している本件の本案訴訟たる申請人被申請人間の免職処分取消請求事件に於て被申請人の申請人に対する免職処分を不当とする証拠が見えられざるのみならず、申請人からそれ以上の疏明もなされていないので、当裁判所は申請人申請の如き執行停止をなす理由なきものと認めこれを却下することとし申請費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り決定する。
(裁判官 林善助 入江啓七郎 菊地博)
(別紙省略)